Round 1 〜チャーリーの声高な沈黙〜
子供の頃、映画館街で手描きの看板を見上げながら、いかに一日で全作品を観るかの作戦を練り、浅草では続けて 6本観ることも。映画は最高の学校。1990年中盤から観たい映画が激減。「2時間の無駄」が並ぶ。
名匠ヴィクトル・エリセが「今日映画の95%は映画ではない。倫理や道徳を描くのが映画だから」と嘆いたのは2006年だから、今や 98%はアウトかも。 ワイダ、ベルイマン、ダッシン、カザン、ワイルダー、デシーカ、ジンネマン、キャプラ他数多くの「倫理や道徳」を教えてくれた監督たちの特徴は「祖国を離れ」「少数派でも」「弾圧されても」「自由を信じ」「異文化、異宗教を尊重し」「自分を客観視」 そして、別格中の別格の最高峰は
★☆★ チャールズ・チャッブリン ★☆★
他人のために何でもする『街の灯』(1931)が私は好き。
「ひと言も喋らないのにみんなにわかってもらえてすごいね」と アインシュタイン。 「誰もさっぱりわからないのに尊敬されてすごいね」と チャップリン。 1931年、ハリウッドボウルでの『街の灯』完成試写会にて © Courtesy of Watson Family Photographic Archive.
KO負けする拳闘試合のカメラカット無き振付は、一体全体、何千時間稽古したのだろう?共演のバージニア・チェリルのあるシーンのテイク数は342回。初期に何十本も撮った短編の撮影現場では、井戸に落ちたり、思いっきりすってんころりんのシーンを満足のいくまで何百回も繰り返す。骨折は当然、命がけの危険いっぱい。結局は作品からは削除もしょっちゅう。 同時に原作、脚本、監督、主演、作曲のすべてを。 私自身が「どえらく根(こん)を詰めて」何かをやったこともチャップリンが撮った計数十万カットのワンカッ卜に込められた真剣さと情熱には到底及ばないのは明白。 想像不可能な苦難の幼少時代を生き抜いたチャッブリンが、そこまで大衆に尽くした理由はひとつ。「笑い飛ばして、希望を持ってほしい」… 赤の他人への限りなき愛。 『街の灯』完成上映会に駆けつけたアインシュタインが映画史上最高のセリフ「Yes、I can see now」の場面で涙を拭うのを見たチヤップリンは、1973年のインタビューで「一番好きな作品」と答えている。
トーキー映画が大流行する中、彼のサイレント作品は、言葉さえ通じない世界中の人達の心に深く届く。 本当の人間には国境がなく、真の役者にとって言語は雑音に他ならない。 彼が最期まで暮らしたスイスの村 Veveyの湖のほとりの銅像の前に立つとサイレントの魔法にかかったかのように声が出なくなる。 (Lucky Day)